「はいチーズ」
間髪いれず、私はシャッターを切った。
残したいんだ
インスタントカメラのフラッシュが目にチラつく。
私はジージーとフィルムをまいていた。Lの視線に気づいていながらも知らんぷりして。
巻き終わって、顔を上げ彼を見れば、すこししかめっ面をしている。
なんで彼がそんな顔をしてるか十分に分かってはいたけど、私はのんのんと構える。
彼の手が私に近づいて、カメラをヒョイッと取っていった。
「あーん」
「没収です」
私がなごり惜しそうに手を伸ばしてもLはそれに答えずカメラを自分の体へと隠してしまった。
それを見た私はプーとむくれて彼に目で訴えてみる。
それに気づいたLは私に向き直り、はあと溜息を一つ。
「私の写真は駄目です、分かっているでしょう」
「うん、分かってる」
そう、わたしはカメラでLを撮った。
いや、正確にはLと私を撮ったんだけど、つまりツーショット。
わたしはこの一枚のためだけにわざわざインスタントカメラを買ってきたんだ。
「じゃあ、なんで撮ったんですか」
彼がまっすぐに私をみるもんだから、すこし怖気づいてしまった。
どう答えようか迷った私はLから視線をはずして、乾燥した唇を舐めた。
鼻から息をゆっくり吐いて、彼の隣に腰を下ろし、膝を抱える。
「残したかったんだ、記憶を」
写真じゃないよ、記憶を残したかったんだ。
慌てて私はそう付け加えて、膝に顔を埋めた。
「写真が駄目なのはもちろん知ってたよ、知ってたさ」
「…」
「でもやっぱり残したいんだもん、何でも良いから」
今と言う時間はあまりにも儚すぎる。
Lと時間をともにして私はそう悟った。
今はたったの一瞬で過ぎていき、そして二度と戻ってこない。
だから人は写真をとるんでしょう、一瞬が勿体無くて、名残惜しいから。
「本当は写真で残せればと思ったけど、でも無理だから」
「さん」
「せめて写真をとった記憶だけでも作って、自分を納得させたかったの」
名前を呼ばれても気にしない。
「だからわざわざインスタントカメラ買ったんだ。
デジカメは取り上げられるには高価でしょ、取り上げられてもいいようにって、だからインスタント」
馬鹿でしょ?独り言のような言葉を最後に添えて、ハハっと乾いた笑みをこぼす私。
改めて自分の口から真相を語って、なんて自分は女々しいんだと感じた。
膝に顔を預けているからLの表情は見えない、かえって今の自分の表情をさらけ出すのは恥ずかしいから
顔を上げようとも思わなかった。
「さん」
「ん」
「すみません、そして有難うございます」
一瞬どういう意味がこめられているんだろうと考えたが、悲しくなったのに気づいて慌ててやめた。
「こんな男と一緒ですみません。あなたには本当に辛い思いをさせていると重々承知しておりますが…」
辛い?そうか辛いかもしれない。
私はたいして気に留めなかったことを本人の口から聞いて、おそるおそる顔をあげ、Lのほうを向いた。
パンダみたいな瞳が冗談みたいに優しくわたしをみるので、思わず動けなくなった。
「そして、ありがとうございます。私とのことを残そうとしてくれて」
「…」
微笑んだ彼に私は思わず抱きついた。
一瞬体が強張った彼だけど、すぐに私に答えるように頭を撫でてくれる。
幸せだな、そう思ったらまた写真を撮りたい衝動に駆られてしまったので
慌ててLの唇を求めた。
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