「好きだよ、」
そう言ってリーマスの温かな手のひらが私のほっぺを優しく包むの。
私がビックリして身体をこわばらせていると、彼は悪戯っぽく微笑んで、私の顔に近づいてきて…
「あっつ!」
太もものいきなりの温度変化に私はむりやり現実世界に戻らされた。
いきなりの叫び声に、なんだなんだと周りの人たちがいっせいに私のことを見るけど、
ただコーンポタージュをこぼしただけだと分かると再び友人達との他愛のない会話を再開させる。
「大丈夫?どうしたの?」
隣に座っていた友人が、フォークを握ったままいつもと何一つ変わらない表情で私の顔を覗き込んできた。
どうしたのだなんて、そんな。はずかしくて言えるわけなかった。
「いや、ちょっとボーっとしててさ」
「そう」
友人との会話に本当のことを言えるわけもなく、適当に会話をぶったぎると
私は慌てて辺りを見渡した。早く、スカートについたポタージュを拭わなければ。
しかし生憎テーブルの上には拭うのに最適そうな布はどこにもなく、私自身もハンカチなんて持っていない。
もうこれはこの際ローブでちゃちゃっと拭いてしまおうか…
早くしないと、ポタージュがスカートにしみこんでしまう、私は腹をくくってローブの裾を持ち上げようとした。
「」
思わす肩を跳ね上がらせてしまった。擬態語をつけるとすればまさに「ギクッ」というようなあらかさまな。
ローブでこぼしたものを拭くだなんてはしたない!と怒られるのかドキドキしながら顔を上げれば、
テーブルの向こうでリーマスがハンカチを差し出していた。
「どうぞ、使って」
そんな彼の微笑んだ口元に、私の心臓はさっきと違う意味で勢いよく脈打つ。
夢の内容が、今日何度目か分からないが頭の中に浮かんできた。
「好きだよ、」
そう言ってリーマスの温かな手のひらが私のほっぺを優しく包むの。
私がビックリして身体をこわばらせていると、彼は悪戯っぽく微笑んで、私の顔に近づいてきて…
「どうしたの?」
私の妄想の中で迫ってきた張本人の現実からの呼びかけに、私は我に帰った。
その微笑んだ優しげな口元が、鮮明に覚えている夢のあのシーンと全く一緒で、いやでも夢と現実が重なり合う。
とんだ妄想のお陰でとたんに心臓の音がうるさくなり、なんだか情けない。
私は激しい鼓動を抑えようと、ゆっくり息を吐き目を閉じた。
何をドキドキしているんだ私は。ただの夢物語なのに。
いや、まてよ。この前占い学の先生が、夢は願望の表れです、なんて言ってたな。
…え、じゃあ、わたし…?
とたんに私は自分の顔が熱くなっていくのが分かる。まさかそんなことはと思いつつも、案外満更でもないわけだ。
やだな、私の顔、きっと今真っ赤だ!
私がどうしようと、一人であたふたしていると、目の前のリーマスは私の変化に目を見開いて、いきなり立ち上がった。
「、熱あるんじゃない?顔赤いし」
「え、いや別にっ」
「ボーっとしてスープこぼしたのも熱のせいだきっと」
それだけ口早にいうとリーマスは自分の席から離れどこかへ行ってしまった。
私はほっぺの火照りを治そうと両手を頬に当てながら彼の姿を目で追っていると、リーマスは事もあろうに
テーブルをぐるーっと回って私の席の元までやってきた。
「大丈夫、立てる?」
彼は私の背中を支えながら、立たせようと促してきた。
やっと静まってきた頬の火照りが再び舞い戻ってきて、私はもう何がなんだか分からない。
「一緒に保健室にいこう、無理しちゃ駄目。休まないと」
「大丈夫だよ、私!」
「あ、スカート…」
私が立ち上がった拍子にとろり、とスカートから流れおちるコーンポタージュをリーマスは見逃さなかった。
彼はその場でしゃがみこみ、一度しまったハンカチを再びポケットから出して、優しくスープを拭う。
「!」
リーマスのあまりの紳士っぷりに、驚きと照れで声も出てこなくなってしまった私。
まず、リーマスがこんなに優しく私に尽くしてくれるだなんてビックリだし、申し訳ないし、
というか、周りの目が痛いよリーマス!誤解される、誤解されるってリーマス!
それに手が、スカートとハンカチ越しとはいえ太ももに触れるだなんて、そんなっ、なんていうかはれんちだ…
あっというまにショートした私をよそに、彼はスープを拭い終えたようだった。
あまり綺麗とはいえない、古ぼけたハンカチを無造作にボケットに突っ込むと、リーマスは私の手を握り、その場から立ち去ろうとした。
「り、リーマスっ?」
「ちょっと保健室行ってくるから、よろしく」
そこらへんにいたシリウスに彼は一言簡潔に述べると、グッと手を引かれる。
「…寝冷えでもしたの?いつも元気なが熱だなんてめずらしい」
大広間から出たとたんに、悪戯ぽっくリーマスが言ったのに対して、
お前のせいだお前が夢にでてくるから!と大声で言ってやりたかったが、彼と繋がれたから右手から伝わる
リーマスの左手の温もりが、夢の温もりと酷く似ていて、なぜか何も言えなかった。
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