「おい、どうしたんだ」

「えっ」


ハッと私は我に帰った。

声のするほうを見れば、そこには日吉の姿。
呆れながら私の顔を覗きこんでいる彼と目が合い、思わず目をそらす。


私、テニス部マネージャーでして。
只今、粉末ポカリ買いに行かされております。

一つなら何てこと無い重さの粉だけれど
今回買う量は半端ない。つまり、かなり重くなることが予想される。

それを考慮した跡部先輩(なんかいやいやだったけど)は、近くにいた日吉を捕まえて
私のお供に出してくれた。


…明らかに嫌な顔されたけどねっ

でも、そんな顔でもときめいてしまったのは惚れた弱み。
つまり私は日吉のことが好きだ。


あの無愛想な日吉とならんで歩けるなんて、とっても!とっても貴重なことなのに
ぼけーっとしてるなんて…
(しかも間抜け面みられたよ、これ)

一生の不覚である。



「あは、は、ごっめん!最近寝不足なんだ」

苦笑いしながら彼にそういうと、日吉は何も言わずジッとこちらを見続ける。

え、私地雷ふんだ?
いやいや、そんなことば言ってないってば!最近寝不足なのは事実だし。


「お前は女なんだから、無理するな。ちゃんと寝ろ」


あほ、と日吉は付け足すと彼は視線を戻して今までより少し早いペースで歩いた。

私は一旦立ち止まってしまった。

日吉にあほって言われた。
最初はショックだったけれど、さっきの場面を何度も、何度も私の中でリピートしていると
あれ?と思って

…口調は命令形だったけれど、今、日吉、私のこと労わってくれたの?


もう一度さっきの場面を頭の中で再生し、さっきの日吉の言葉について考えてみる。

うん、日吉、さりげなく私のこと労わってくれた!


はっきりと自覚すると嬉しくて嬉しくてしょうがなく、
頬が緩んでしまった。


今まで、日吉と会話なんてあまりしたこと無かったからわからなかったけれど
日吉って実は優しいんだね…。


大好きな彼の新たな一面をしれたこともうれしくて、自分で自分を抱きしめた。


が、ふと気がつくと日吉との距離がカナリひらいてしまっていることに気づき
私は急いで日吉へと駆けた。

走っている途中で、何やってるんだ私、と思った。
やっぱりあほだ。



*******




半分こにしたといっても随分おもいぞ、粉末ポカリ。

「ちょ、ごめん。日吉!ちょいストップ…。」

明らかにペースダウンした私に対して、さっきとかわらずのペースで歩く彼に私は付いていけなかった。

私の声に気づいた彼は止まり、こちらを見ると、ハァと溜息をついた。

そんな彼の様子をみてとてもいたたまれない気分になる私。
ごめんね、こんな頼りないマネージャーで。


「しょうがねえな。」

呆れたように彼はそういった。
未だにいたたまれない気分だけれど、今の一言も日吉のやさしさが表れてるな〜と心の片隅で
考えていた。


荷物を一旦おろし、手をぷらぷらさせる。
はたとレシートは何処にやったけかと思い、ポケットに手を突っ込む。

が、紙らしき存在をみつけられず、背筋がゾォッとなった

まさか、なくしてしまったのだろうか?
いやいや、まさかそんなこと…ないと信じたい。

体のいたるところを触って何か無いか確かめてみる。
必死な私の姿を、日吉は呆れた様子でみてる。

むぅ、なんで、こう日吉がいる時に限ってなくなっちゃうのっ

少し涙目になりながら袋の中を探した。
荒々しく手を突っ込みかき回した、すると、下のほうでクシャクシャになった紙が。
もしかして!
半分笑顔になりながら急いで紙を開いてみると、それはレシートであった。

はぁ、と息を吐き出して胸に手を当てる。
良かった、良かった、と安堵に浸っていると、日吉の視線が私の胸に向けられていることに気づく。

え、私貧乳なのに…と思って、胸に目を向けてみると

、指から血が」


日吉の言葉とともに、指から血が流れていることに気づいた。

レシートできっちゃったのかなでもこれくらいなんでもないよね、そう思って
「ほんとだ、ありがと」と日吉に言おうと彼をみると、
日吉はポケットからティッシュを出していた


「ほら、手出せ」


何が何だか分からず言われるがままに彼のほうに手を出すと、日吉はティッシュで優しく
血の出ている指をくるんでくれた。


「ひ、ひよし」

「お前、ほっとこうとか思ってただろ?
 男ならともかく、お前は女なんだから、もっと大事にしなきゃだめだろ」


彼は怖い顔をしてそう言った。
けど、彼のことばが嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。


今日、まともに彼と喋った。

容姿も勿論だけれど、彼のひたすらに頑張ってる姿が好きだった。
下剋上を目指す彼に憧れてた。

そんな彼の姿をみているだけで、私は満足だったけれど…

だから分からなかった、彼がこんなに優しかったこと。
彼のそんな一面をしれて嬉しくて嬉しくてしょうがない。

どうしよう、どうしよう。
彼のこと好きなのに、こんなに優しいなんて事知ったらもっと好きになっちゃったよ。


ごめん、いきなりで申し訳ないけど


「わたし、日吉のこと好き」


ほんと今日始めてまともに喋ったのに。

何故か分からないけど、自分が情けなく感じ、うつむいた。

もしかしたら日吉に嫌われちゃうのかな〜、もう私に優しくしてはくれないのかな〜。
後悔が頭の中でぐるぐる駆け回り、この場から逃げたくなった。

しかし、日吉の手は、ティッシュ越しに私の指を握ってくれている。
そんな彼の手を振り払うなんて、勿体無すぎた。



「ありがとう」


彼は一言そういった。
恋愛小説では大体この後「でも」とか言って断られちゃうんだよな。
そんなことを頭で考えてた、でもまだ顔を上げることは出来ない。





「…」

「俺」














「い、ったい」

わき腹に変なとても小さい痛みを感じた。

慌ててわき腹の方をみる。
わき腹はなんともなかったが床に無数の小さな消しゴムが。

え、ってかここ教室っ!
さっきまで外だったよね、道路だったよね…。

まさか…、私夢見てたの…か。

そ、そんな言い雰囲気だったのに(振られそうだったけれどさ)
私と日吉があんなにほのぼのな感じになってるなんて…なんて幸せなこと!


「お前、五時間目ずっと寝てたな?」



不適な微笑を浮かべてコチラにやってきた日吉。
私は反射的に眉間にシワを作る。

「しょうがないじゃん、ご飯食べて眠たかったんだもん」

「あほ。次のテスト、どうなってしらねえからな。」


教えてもやんねえからな、と日吉は付け足す。
私は「ちぇ」っと漏らし、「別に大丈夫だも〜ん」と彼に放った。

でも
何だかんだで結局私はテスト前、日吉の元へ駆け込む、毎回毎回。
とっても嫌な顔を彼はするけれど、ちゃんと教えてくれる。
日吉は優しいから。

私は日吉のそんなところが好きだ。
夢と同じで。


「それより日吉!あんた私が寝てる間ずっと消しゴム投げてたでしょ!?」

「ああ」

「もー、折角熟睡してたのに。六時間目も延長して寝てたかったのに」

「俺はのため思って起こしてやろうと消しゴム投げてたんだぞ」

「うっそつけー!ただ遊びたかっただけでしょうが!このドS!」


私は目くじら立てながら彼にそう言った。
とりあえずむしゃくしゃしてしょうがない。

でも、私はあんな夢みてたんだ。きっと私は日吉とそういう関係になりたいとか望んでるんだろうな。
きっと目の前のキノコが好きで好きでしょうがないんだろうな。


まあ、あんなほのぼのな雰囲気にはなれないだろうけど。
でも、いつか、さ。


こうやって言い争いをしてる間も、私はこっそり喜びを感じている。






*end*





















Postscript***

たいっへん遅くなって申し訳ありません!
華乃未来様リクエスト、「日吉・ほのぼの夢」でございます。
いや、あの、どこら辺がほのぼの…なのか 水無瀬自身もよく分からないとです。
一歩間違ったら甘夢のような、シリアスのような…。
サイトを立ち上げてからも全然進化してない水無瀬です。

二ヶ月近くも待たせた上、いろいろと可笑しな作品でございますが、もしよろしければどうぞ!
気持ちだけは無駄に詰まったものですので!