はあ、と私は息を吐き出した。 携帯をもつ手がプルプル震えている。こんなにメールを打つのに緊張したことがいままであるだろうか。 ないだろう、絶対ない。 私は書き終わったメールを何度も何度も見直し、誤字や脱字がないか確認する。 どうやったら少しでも彼にわかりやすく読んでもらえるだろう。 そう考えるとなんだかとても落ち着けなくなって、もう何度目かわからないが再度メールに目を通した。 絵文字もあまり使いすぎないように控えて、清楚なふりもしてみる。 大丈夫だよね、読み終わった後、私は自分にそう言い聞かせた。 ボタンにそっと手を這わせる、唾を呑んだ。 ピッ 部屋に響くあまりに軽率なその音に、私は何をこんなにドキドキしているのだろうと思った。 ふと携帯の画面をみれば「送信しました」の文字。 どうやらあのメールは彼の元へと出発したらしい。 さて、玉砕覚悟で授業中大好きな丸井に告白したのは数日前のこと。 結果は、言わずもがな分かっていたことだが玉砕だった。 「ごめん」 その一言が今でも私の頭の中でリピートされる。 承知していたとはいえ、やはり悲しかった。文字通り、私の心は粉々に砕けたのだった。 丸井はそう一言言うとシャーペンを握りなおし、私が書いた文字の下に何か書き始めた 『俺、好きな人がいるんだ』 あまり綺麗とはいえない字だったが、私を驚かせるのにはあまりに大きな存在力をもった字だった。 ビックリした。丸井に好きな人がいるなんて。 いや、好きな人がいるのは普通だ、それよりも驚いたのは、丸井が片思いだということ。 だって、この書き方はそうでしょう? 丸井ってばそんなにモテるのに片思い。彼女なんて作ろうと思えばいくらでも作れそうなのに。 ということは、彼が好きなのは彼のファンじゃない人。 私はすでにぼろぼろだったが、何とか理性を総動員させて平常心を保ち、彼との文字の会話を続けた。 『以外、丸井ってもてるのに』 そう書けば丸井は苦い顔をして 『そいつにだけはもてねーの』 と書いた。やはりファンじゃない人らしい。 すると丸井は少し照れた顔して、数学のワークを自分の机の上に戻し、難問と向き合った。 そんな彼の様子をみて、とても切なくなった。 終わった。全部終わったんだ。 私はそう思った、少し泣きたくもなったが、授業中なので泣くわけにもいかず、ただ机の文字ばかり見ていた。 もうこれで丸井との繋がりも消えてしまうんだな。 告白された人に勉強を教えてもらおうなんて、彼はしないだろう。 これからはきっと丸井と一言も交わさず、席替えをして、繋がりなんてこれっぽちもなくなっちゃうんだ。 そう思うとなんだかとても惜しく思った。 失恋したのは辛いけど、彼とのせっかくの繋がりを絶つのも辛い。 私はとっさにどうしたら彼と繋がれるかを考え出し、となりの丸井の肩を叩きコチラを向かせ、 机に再び文字を書いた。 『丸井の恋、私で良ければ応援する。何でもするよ』 それをきっかけに、私は彼のメールアドレスを聞いた。 彼の好きな人も聞いた、F組の山田さおり、って子らしい。 クラスも違うし、テニス部にも無関心だから全然アイツのこと知らないんだけどな。 彼はそうメールで言っていた。どうやら見た目だけで好きになったらしい。 所詮男なんてそんなもんか、私みたいな平凡な子は可愛い子と違って人生損していきていくのね。 私はもう吹っ切れたのか、以外と冷静にボソボソと愚痴りながら携帯の画面を見つめていた。 その後、私は友達にさりげなく山田さおりちゃんの情報を聞きだした。 「丸井の好きな人の情報集めてるんだ」なんて口が裂けてもいえないので、適当に言い訳してみるも、 それはそれで大変であんまり情報は集まらなかった。 それでも集まったちょっとの情報。 私はそれをメールで彼に送ったのだ。 わたしはベッドに横になりながら、これじゃあ自分の首を締めてるだけじゃないかとボーっと考えていた。 いくら彼との繋がりを保つため、と言っても、もっと他の方法があったんだじゃないか。 これであの二人が付き合ったら私はどうするつもりなんだろう。 「馬鹿だ、わたし…」 自分に向かってそう言うと、すごくやるせなくなった。 本当に馬鹿だ、馬鹿だ。 心臓のあたりが無性にウズウズして私は枕に顔を鎮めた。 〜♪〜♪ ビックリして思わず飛び上がった。 携帯が鳴ったのだ。別にそんな驚くことではないが、シーンとした部屋にいきなり音楽が流れるのは心臓に悪い。 丸井からだろうか、携帯を握り締めて私は固まった。 毎回彼からメールの返事が来るたび緊張して私は固まる。 どこか怖いのだ、彼の返事を見るのか。 私は意を決してそーっと携帯を開く。 画面がパッと明るくなった。
なぜか泣きたくなった。 悲しいからじゃない、嬉しいのだ。 彼が喜んでくれた、私のやったことが彼の役にたつんだ。 そう思うとなぜか満たされた気分になるのだ、辛いことをしているはずなのに。 私、がんばろう。 丸井の恋を本気で応援しよう。 今なら思える、彼が幸せになってくれるならそれでいい。 例え私にとって悲しい結末を迎えたとしても、彼の頼りになれるならそれだけで十分だ。 そして、謙虚にがんばっていれば、もしかしたら、いつか丸井も私のこと…。 …なんてね。 私は目じりに涙を溜めながら、思わず笑ってしまった。 end |