哀ノ始マリ







「ほら、見てくださいよ。この大きな屋敷」


誇らしげに踏ん反り返る切原のことなんて誰も見ていなかった。
彼らの目に映るのは、目の前に立ちはだかる巨大な屋敷。
大きく不気味な屋敷に彼らは好奇心を押さえ切れなかった。



「ってことで…、肝試しはここでやりましょうよ!」



そう、彼らはこれから肝試しをやるのだ。

立海大附属中男子テニス部。王者と呼ばれる彼らに休みなどなく、この春休みにも
レギュラー陣は柳の叔父のペンションを利用して合宿の真っ最中。
朝早くに起床。ランニング、朝食、基礎練習、昼食、練習試合…そんなハードな一日を過ごす
彼らだが、所詮彼らも中学生。
夜には肝試しをしようという企画を立ち上げていた。
もちろん一部の人間には反対をされたが、あくまでも一部。多数が賛成で見事、実行されることになった。


「肝試しにピッタリじゃんか、うっわー!何か楽しみになってきたぁ」

「エヘヘ、肝試しなんて久しぶりだなー」


丸井に便乗して、どちらかというといつもは副部長’sサイドのも期待を表現した。
常に淡々と与えられた仕事をこなし、一目置かれる存在となった彼女だが
彼女もまた中学生。
こんな時まで大人しくする気などさらさらないのである。

しかし、まだ不安を抱える者はおり


「しかし、勝手に入るなど」

「別に良いんじゃなかと?こんなボロ屋敷、だーれも住んどらんよ」


正直仁王も乗り気ではないのだが、折角やるのだったら皆で楽しまなきゃつまらない、という気持ちから仁王はそう相方に言った。
柳生も初めは顔をしかめていたが、たまには息抜きも必要だと自分で自分に言い聞かせ、はあと溜息ののち
「そうですね」と仁王に答えた。


そんな二人をみて、そろそろ良いかというようにはショルダーバッグから
無数の割り箸の束を出し、グイッと彼らの前にだした。


「じゃあ、はい。このくじひいてー」


彼女のその一言を合図に、皆彼女の右手の周りに群がる。
それぞれ一本ずつ割り箸を抜き取り、書かれている番号を確認した。

いちばんだーれ。誰かのその言葉に答え、二本の手があがる。
切原と真田だ。
切原はとたんに顔色を変え、ゲッと口から漏らした。
表情一つ変えず、切原に近づく真田の姿に、切原はなぜか逃げたくなり、周りを見渡すが
苦笑するものや、やーいと冷やかす者しかその場にはいなかった。


「にばんだーれだっ」


明らかにブルーなオーラを放ち始めた切原をよそに、丸井は明るい声で周りに問うた。

はい、と小さく手を上げた
そしてもう一人、挙手したのは仁王だった。

はチラッと仁王に視線を向けるが、仁王は表情を変えずただ割り箸に書かれた番号を見ていた。
そんな姿を見た彼女はどうせならば丸井とか切原とか明るい子が良かったなあ、と思いつつも
別に仁王を嫌っているわけではないので、素直に仁王へと足を運び、「よろしく」と一言声をかけた。







***************







「ルールを説明する」

それぞれペアも決まったところで、柳が突然全員の前に立ち、話し始めた。
「柳先輩も乗り気っすね」と切原が一言いうと、とたんに柳のさすような視線を彼は感じた。
やばい、と切原の額に冷や汗が伝う。

「悪いか」

「いえ、ぜんぜん」

首がもげるばかりに精一杯に首を振る切原。本能がここは素直に否定しておけと告げたらしい。
柳はそんな切原の姿を数秒ほど凝視した後、視線を元に戻した。


「移動中に確認したのだが、この屋敷を出た向こう側に広々とした庭があるようだ。
 その庭の最も奥に大きな桜の木がある。その真下に今からわたす花を置く。
 そしてこの場に戻ってきて終了だ。」

「えー、それだけっすか?お化け役とかいないんすか?」

「そこまで準備はしていない。廃墟の雰囲気を感じるだけで十分だろう」

「じゃあよ、どのグループが一番早く桜の木の下に花供えてここに戻ってくるか勝負にすれば?」


どうだ?良い案だろぃ、と付けたし丸井はみんなに向けてウインクした。
彼らは丸井の意見を聞くなり、いいなと肯定の意を表し、頷いた。

「じゃあそれで決定」

誰も、そんなの肝試しでもなんでもないじゃんと突っ込まないのは、全員負けず嫌いだからだろう。
丸井はガムの風船をパチッと割った。




一組に一輪ずつ、丸井はそこら生えてあった花を渡している。
適当に近くにいるグループに順々に渡し、最後に・仁王のグループへと向かう。
は「ありがとう」と丸井に微笑みかけるが、彼は彼女に花を渡そうとしない。
クエスチョンマークを浮かべ、どうしたのと丸井に問いかけようとすると、丸井は突然左膝を地に着け

「これが俺からへの誕生日プレゼントです」

と悪戯っぽく笑いながら彼女に花を差し出した。
そんな彼を見て、彼女はクスッと笑うと丸井の手から花を受け取る。


「こんなプレゼント貰ったって嬉しくないなぁ。せめて花屋で買った花にしてよ」

「へっ。中学生はそんなに裕福じゃねえっつうの。これで我慢しろぃ」

「えー」

「何真に受けてるんだよ、冗談だって」


丸井とはお互いの顔を見合いながら笑った。

そう、彼女は明日…つまり数時間後に誕生日を迎えるのだった。
誕生日と合宿がかさなっちゃうなんて大変だね、と何人かに言われたが、彼女自身はそんなに苦と思っていない。
むしろこんなふうに仲間と話したり、ふざけたり、祝って貰うのもは楽しみにしているのだ。
勿論、彼らが自分のために豪華なパーティを開くなんて彼女は思ってもいないが、
誕生日おめでとうの一言や、安っぽいプレゼントで彼女は満足できる。
は小さな幸せを感じていた。


二人で笑いあったのち、全てのグループに花を渡し終えた丸井が自分の位置へ戻ると「READY?」とみんなに声をかける。
無言で頷く彼ら。丸井はにいっと笑ったと同時に「よーい」と大声で叫ぶ。
つばを飲み、誰もがこぶしに力がはいる。彼らの負けず嫌いな性格が露になる瞬間だ。

「スタートッ」、彼らはいっせいに屋敷の入り口を目指し駆けた。


も彼らと同様、屋敷の中へと走り出そうとしたが、その瞬間風が吹いた。
一瞬だけ緩めた彼女の手のひらから、一輪の花が飛ばされた。


「あ」


反射的に彼女は花を追いかける。
一方屋敷の入り口までいった仁王はが反対方向へ駆けたのに気づかず、屋敷の中へと足を踏み入れてしまった。

も仁王のことは気に留めず花を懸命に追う。風がやみ、花がふわりと地面に落ち彼女は手を伸ばした。

素直に彼女の右手に納まった一輪の花。
安堵の微笑と溜息をこぼしたは「仁王ごめん」と言いながら彼がいるであろう場所へと振り返った。

しかし、彼の姿がそこにないのに彼女は気づく。


におう?彼女はそう呟いて周りを見渡した。
やはり、仁王の姿は見られない。


先に中にはいってしまったのだろうか。彼女はすぐに答えを見つけ出し、
彼と合流するために一輪の花が握り締められた右手に力を入れ、屋敷の入り口の前へ足を向けた。


一瞬彼女は足をとめた。屋敷の中からでてくる空気に悪寒を感じたからである。

しかしはそれを恐怖と捕らえず、好奇心だけと勘違いし、左足を、屋敷の中へと入れた。




足を踏み入れたその時、彼女の目の前に眼球が捉えてないものが浮かびだされた。

モノクロの像、ところどころノイズがはしるなどして乱れていた。
しかし、変にハッキリした像でもあり、確かにの脳内を侵食していく。


真っ白の着物を着た少女が浮かぶ。

が、一瞬にも満たないうちに砂嵐が走り、見えなくなったがまた次の像が浮かぶ。

次は一人の男も一緒だった、パラパラマンガのようにカクカクと動く。

男の人が着物の少女の前へと立つ。そこに誰かが現れて男の人に杯をわたす。

彼は杯に口付け、液体を口に含み、そして…




そこで像が途切れた。ハッと我に戻る

「今のは…」

彼女は手を頭にやった、夢でもみていたのだろうかと思いがめぐる。

でも、こんなところで寝てしまうなんてないはず。
は手をどけて周りを見渡した。
彼女は異変に気づいた。

さっきまでと周りの様子が違う。
いや、全く別のものになったわけではない。さっきと同じ屋敷の中だ。
でもさっきまでの屋敷はずいぶんと廃れたものだったのに、今は違う。

腐敗した木材、くもの巣が張りめぐらされている隅が、そこにはなかった。
まだ腐敗していない木材、くもの巣もない。かわりに、周りにはたくさんの物が散乱し随分と荒れていた。

彼女は目の前で起こったことに動揺を隠せない。
冷静に判断して、状況を整理しようなんて思わなかった。


「仁王…?それに……、みんなは?」

とたんに心細くなったはもう一度周りを見渡す、しかしもちろん誰もいない。
どこにいっちゃたの?彼女はそう思い急いで立ち上がり、一心不乱に屋敷の奥へと足を進めた。










今、全てが零から動き始めた。
















零というゲームに良い意味で衝撃をうけてしまって、あの世界観で夢小説がかけたらなあ、と思いつき
半ばのりで連載をはじめてしまいましたこのお話。
正直、色々と心配なんです。一応エンディングは考えてあるんですけど、その間を
どんなふうに埋めていけばいいか。
他にも設定が途中で変わったりしないか、登場キャラ(幽霊)を考えていけるのだろうかなど、
相当難産な作品になる気がします。
まあとりあえず、自分のペースでストーリーを考えていき、ゆっくりと連載を続けていけたらなと思っています。
お読みくださった皆様も、どうぞ最後までお付き合いください。