たった板一枚。

それなのに何も出来ないなんて。









離レバナレ









「もういや…」


は体から力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。
瞳からは次々と涙が溢れてくる。
それをぬぐう気にもなれずに彼女は俯いた。



「怖いよ、なに、さっきの人。死人みたいだった、なんであんな人がいるの?
 それに首に変なモノまで焼かれて…わけがわからない」



弱音を吐くに彼らは歩み寄り、慰めの言葉をかける。
真田が「大丈夫か?」と声をかければ彼女はコックリと頷くが、泣き止みそうにもなかった。


泣きたいのは皆同じだった。
この状況を教えてもらいたいのは皆同じだった。

しかし、目の前の少女のほうが誰よりもダメージを負っているのは一目瞭然。
少年達は何もかも投げ出したい感情を抑え、冷静を保つ。


「彼女のためにも早くこの屋敷の外にでましょう、皆さん」

「しかし、丸井たちが…」

「もう外に出ているかもしれません」


みんなを促すように声をかける柳生。
でも、そう切原は思った。一瞬口に出そうか迷ったが紛れも無い真実。
重い口をそっとひらいた。


「無理ッスよ、玄関、閉まってますから」

「どの窓も格子をかけられているようだった、多分出れまい…」


誰も続けなかった。の嗚咽だけが部屋に響く。

どうすればいいのだろう、戸も窓も閉じられたこの屋敷。
最善の方法はこの屋敷から脱出することだが、それも出来ない。
閉じられていない戸、格子のかかっていない窓は探せばあるのかもしれない、
しかしこれ以上屋敷を探索するのはリスクが大きすぎる。
さっきのあの男に、狂気にみちた着物を身にまとう女にまた見つかったら。
できれば避けたい方法。

けれど、それ以外に選択肢はないのである。全員分かっていた。




柳は彼女に手を出し、立つように促す。
その手を支えには立ち上がり、涙をぬぐった。


「仕方ない、ほかに外へ出られる方法をさがすしかあるまい」

「ええ、そうですね。それに丸井君たちも探さないと」


みんなの顔を見れば、異議は無いと悟る。
柳生と柳を先頭に、重たい足に鞭打ち、部屋からでようとした。


しかし



バタン!



「きゃあ!!」


柳生と柳、が部屋の外へ出た瞬間扉がいきなりしまった。
風が吹いているわけでもないのに、それはまるで意図したかのように勢いがよかった。

まさか、は不安に思い扉に手をかけ、あけようとする。開かない。

前へ後ろへ、なんどもなんどもうごかしても扉はうんともすんともしなかった。


「ねえ、そっちからも動かして!」


彼女に答え、扉の向こうにいる仁王も同じように扉を開けようとしてみるが、やはり動かない。

しばらくするとドンっとあちらから衝撃がくる、多分扉に突進したんだろう。
それでも扉は開きやしなかった。
まただ、また変なことが起こってしまった。
彼女は慄然とし、後ろに助けを求めた。


「どうしよう!扉がしまっちゃった!」

「そんなっ、さっきまで開いていたのに」


柳生、柳も手伝い扉を開けようとするがやはり同じ。
はいきなりの出来事にまた泣きそうになり、それを堪えるために、開かずの扉を己の拳で思いっきり叩いた。


「ねえ、そっちもだめ!?」

「だめじゃ、開かん」


仁王の声が聞こえる。確かに彼らはそこにいるのに、顔を見ることも出来ない。
もどかしさに彼女は扉を強くおした。
開くのではないかという期待すら虚しく感じる。



「どうしよう…仁王たちが閉じ込められちゃった」

「弦一郎、赤也も無事か」


そう声をかければ、向こうで二人の声が返ってくる。
中では何も起こっていないようだ。

しかし、いつまでもあの狭い部屋に閉じ込めることは出来ない。
相手は霊だ。きっと壁すらも越えてやってくる。



!」


無我夢中で扉をあけようと頑張るに、仁王は声をかけた。
彼女は手を止め、耳を澄ます。


「何?」

「射影機、さっきオレがもってたカメラあるじゃろ?アレをもってこい!」


そう、あのカメラなら開けられるかもしれない。

仁王はさっきも似たような状況だったことを思い出す。
開かないフタを射影機で撮ったら何故か開いたこと。

なんの確信も無いが、それしか方法は思いつかない。彼は必死だった。


「どこにあるの?」

「さっきの部屋じゃ!俺らがいた」


またあの部屋に戻らなくてはならないのか。
扉の外にいる三人はそう思った、もしかしたらまだあの周辺で男が徘徊してるかもしれないのに。

しかし、扉の向こうの人たちを見捨てられない。

「いきましょう」柳生のその言葉に彼女らは逃げてきた道を駆け戻った。







*********************





「撮ったよ!」


奇跡的になににも遭遇せず射影機をとり扉の前へもどってこれた彼らは、仁王の指示に従い、
射影機で扉を撮影した。

ジジッと音を立てながら写真がでてくる。
出てきたばかりでまだ真っ黒な写真をひとまずおいておいて、は再び扉をあけようとした。

扉を全体重かけて押してみる。
しかしさきほどと同じように扉は微動だにしない、木同士がぶつかる鈍い音が暗闇に響く。



「駄目…ですか…」


柳生の希望を失った問いかけには答える気にもならない。
なぜこの扉は閉まってしまったのか。すぐ向こうには仲間がいるのに!

彼女は扉に爪を立てた。



「おい、これを見てくれ」


振り返れば柳がさっき撮った写真を手にこちらを見ている。
二人は彼に駆け寄り写真を覗き込んだ。


おかしい。一目でわかる。
今撮ったのはこの扉、なら当然この写真は扉の像を結ぶはずなのに。

写っているのは髪の長い少女と肩ほどで綺麗に切りそろえられた髪の女性。
白黒で荒い像のためよくは見えないが、どこか哀感が漂う写真である。



「どういうことでしょうか?」

「何で、だって今撮ったのはこの扉…」


疑問符を浮かべ、写真を凝視する三人。


「しかし、結局扉を開けられなかったか…」

「どうしよう…」

「そういえば、あの部屋にはもう一つ扉がありましたよね?」

「うん、でも鍵のかかった……あっ」

「それだ、扉の反対側に回ればあの扉を開けることが出来るかもしれない」

「ええ。この屋敷を探索するのは不本意ですが、ひとまずそういたしましょう」


まだ望みはある!
そう思うと絶望で満たされた表情に若干明かりがもどった。

柳は写真をポケットにしまった。


「では、俺たちはもう一つの扉の方を調べてみる」

「うむ、こちらも開けられるように試してみよう」

「仁王、赤也、真田!待ってて、絶対開けるから!」

「頼みます!先輩」

「気をつけろよ、お前達」



行きましょう、そう促す柳生に、後ろ髪を引かれる思いながらも、彼女は歩み始めた。



途中で一度振り返る、どうか、また無事に彼らに会えるように、と。




















ただ閉じ込められただけのお話。
ごめんなさい、幽霊でてこなくって。