すぐ隣には大好きな人。

今にも私の心臓は爆発してしまいそうです。







君に捧げる精一杯。






「じゃあ、ここはこの公式を使えば解けんのか?」


「え、あー…。…違う違う、こっちの公式を使うんだよ」



今にも上ずってしまいそうな声を抑えながら、私は教科書に書いてある公式を指差した。
隣の丸井は「わけ分かんねーよ」と言って、思いっきり伸びをしている。


もう全然わかんなくていいよ!どんどん私を頼って!

私は心の中でそう呟いた。




テスト前の数学の時間。
授業を進めるわけでもなく、ワークをやったりプリントをやったりとテストに備え、皆お勉強中。

私もみんなと同じようにただただプリントの問題を解いていた。
すると、突然隣から私を呼ぶ声が聞こえた。

丸井だ。

ドキッといきなり速くなる鼓動。急いで声が聞こえた方を見れば丸井が私を見ていた。
そしてワークの基礎問題を指差して一言。

「教えて」

と。



ああ、何て幸せなんだろう!
丸井の問題を解く手をみながらそう思った。


丸井といえばテニス部のレギュラーで運動神経抜群。
おまけにかっこいいし、真田なんかと違って(ごめんよ真田)すごく付き合いやすい性格だから、
めっちゃくちゃモテてる。


以前のバレンタインといったら…あれは戦場だった。

そして私もその戦場に赴き参戦した一人である。
まあ、結果といえば、参戦する前か分かっていたことだが惨敗だった。


彼を囲む女子の皆々様のお陰で彼に近づくことも出来なかった。
もちろん、チョコも渡せずに。

結局、せっかく作ったチョコがもったいないのでチョコで溢れ返る丸井の下駄箱にそっとチョコを置いてって
私は戦線離脱。これでも精一杯。



そんなこんなで恋愛事に何も恵まれなかった私についに春が来たのが数週間前の話だ。

一瞬目を疑ったのを覚えている。黒板にかかれた席順。
くじをひいたあと、丸井が自分の名前を書いたのは私の席の隣だった。

あの時の自分の喜びようといえば…本当にまぬけだったと思う。
友達にドン引きされるのも構わないほど私は喜んでいたのだった。



と、そんな幸せもつかの間。

隣になったのは良いが、気が小さい私が丸井に積極的に話しかけられるわけでもなく、
想像していた楽しいスクールライフは訪れなかった。
今までは。


ようやくそんな私にも本当の春がきたのは嬉しい。
とても嬉しい。

だけど、人間はなんて我侭な生き物なんだろう。

チョット前まで話せるだけで構わない、そう思っていたのに、今はもっとずっと傍にいたいと思ってしまう。
そんなはずできるわけが無い、分かっているのに。


告白してしまおうか。

そう考えてしまうのだ。



「で、ここが二乗だろぃ…。これで合ってんのか?」


「…うん、OK 多分大丈夫」


お世辞にも綺麗とは言えない文字、そんな文字も愛しく思えるのはきっと恋のせいだよー。
そう思いつつも、私は次の問題に目を移した。

ちょっと複雑な問題。きっと丸井には出来ないな。

そう思い、チラッと丸井を見ると眉間にしわを寄せて困っている様子。
案の定、無理らしい。

…丸井ってやっぱりカッコイイなあ。かっこいいんだけど、どこか幼い感じもして…。
仁王とはまた違って良い。だからこんなモテるのかなぁ。

そんなことを思っていると丸井と目が合った。
あんなことを思っていたからびっくりして思わず目をそらしてしまった。


「じゃあ、次の問題はどうやんの?」


そーっと丸井を再び見ればやっぱり次の問題が駄目だったらしくその問題を指差してこっちを見てる。


「この問題は…まず8でくくるんだよ」

「くくる?なんだそれ?」

「だ、だから、この二つの数って8の倍数でしょ。だから8で割って、8を括弧の前に持ってくるの」

「あー、なんだ。くくる、ってそのことか。
 数学ってめんどくせー。こんなのやっても絶対将来役たたないだろぃ」


それをいったらお終いだよ、と私は苦笑いを浮かべた。

こんなふうに彼と笑って話せるなんて、なんだか夢みたいで幸せ。



「あー、…で、8で割ったぞ。どうすんの?」


「そうすると、ここと、ここが一緒でしょ。だからXに置き換えるの」


「は?どこどこ?」


と、彼がワークをともに、私によって来た。
私はいきなりの展開にワークを見るどころではない。


近い、近いよ丸井。

しどろもどろに「こことここをXに…」とワークの問題を指差すが、自分のドキドキという心臓の音に
もう何がなんだか分からなくなった。

何か汗臭い…でも良い。今日も朝練だったもんね。
あ、首筋にちっちゃい黒子が…、気づかなかった。


「で、Xに置き換えたら?」


「え、あ、そうするとほら、この公式と同じになるでしょ」


教科書と問題を照らし合わせ、おーと嬉しそうに笑う丸井の顔。

私が彼を笑わせたんだ。
そう思うとすっごく幸せになった。

今、あんなにモテてる丸井がこんな近くにいる。

ちょっと汗臭いところ。

ちっちゃな黒子が首筋にあること。


知ってるの私だけなんだ、今までにないような優越感が身体をめぐる。



『告白してしまおうか』


その言葉が再び脳裏を過ぎる。
いうのならば、今が格好のチャンスだ。今しかない、きっと。


でも、間違いなく断られる。
だって、彼はすごいモテる、私みたいな平凡な子なんて好きなはずが無い。
それに、これからテニス部は大会だ。きっと彼女なんて作る暇はない。


だけど…、私は。
気が小さいから、きっとこれから話すこともないだろうし、もうすぐ席替えの時期。



「そんで、このXを元に戻せばいいんだろぃ?」


「…」


「…?おーい、


「丸井」


「あ?」



わかってる、どうせ無理な恋愛なのだから。
失恋するなんて…ちょっと早いか遅いかの違いなんだから。



私は机の上に転がってる自分のシャーペンをそっと手に取り、机の上に文字を書いた。


『私』

『、』

『丸』

『井』

『の』

『こ』

『と』

『が』


彼はマジマジと次々書かれる文字を目で追っている。

やめるなら今のうちだな、なんて一瞬やめようとしながらも、私は震える手で次の文字を書こうとした。
今にも私の心臓は爆発してしまいそうです。



『、』



『好』


さらば、私の恋心。
そして私は最後の一文字を書こうとするのだった。
















end





                                                                      .











****Postscript****
大変お待たせいたしました。サイト一周年記念こっそり夢リクで
華乃未来様より、「丸井・切ないほのぼの」夢でございます。

二ヶ月以上お待たせした割には、ご期待に副えられるようなものなのか…不安です。
イマイチ切ない要素が感じられないなと思いつつこれでも精一杯です。

前回捧げたものから全く進化の感じとられない小説ではありますが、
日ごろの感謝の気持ちだけは無駄に詰めた作品です。
どうぞ、お受け取りください。


では、華乃未来様、リクエスト誠に有難うございました!